wolfSSL 5.9.2 をリリースしました。本リリースでは、ポスト量子暗号(PQC)、Crypto Callback のサポート強化、Rust ラッパー、組み込みハードウェア対応など、幅広い新機能と機能強化を加えました。wolfSSL 5.9.1 と同様に、多数の CVE への対応と一般的な不具合修正に加えて、いくつかのセキュリティ強化に伴う動作変更が含まれています。
脆弱性への対応
本リリースでは合計 32 件の CVE に対応しました。これは以前にお伝えしたとおり、AI を活用した CVE 報告の増加という傾向に沿ったものです。件数自体は前回リリースより増加していますが、次の点にご留意ください。
- 【重要度: High】および【Critical】の CVE の件数は減少しています。
- 5.9.2 と 5.9.1 のリリース間隔(約 2 か月)は、5.9.1 と 5.9.0 の間隔(1 か月未満)よりも長くなっています。
- 今回の【重要度: High】のCVE は影響範囲がより限定的で、主に特定の OpenSSL 互換 API や、デフォルトで無効な機能に限られています。
【重要度: High】の CVE の影響を受けるユースケースは次のとおりです。–enable-opensslextra を有効にした X509 検証(API: X509_verify_cert())、DTLS 1.3、TLS 1.3 を使用する Renesas TSIP TLS ポート(WOLFSSL_RENESAS_TSIP_TLS)、Raw Public Key(HAVE_RPK)を使用した X509 チェーン検証、および OpenSSL 互換 API の PKCS7_verify()。
脆弱性を責任ある形で開示してくださった NVIDIA Project Vanessa、Anthropic、UC Berkeley Sky Lab の各チーム、および多くの個人コントリビューターの皆様に感謝申し上げます。全一覧は wolfSSL 脆弱性ページをご覧ください。
新機能
- wolfCrypt SRAM PUF(Physically Unclonable Function)対応。SRAM の電源投入時の状態から、BCH ファジーエクストラクタと HKDF を用いてデバイス固有の鍵を導出します(wc_PufInit、wc_PufEnroll、wc_PufReconstruct)。
- wolfCrypt SHE(Secure Hardware Extension)対応。SHE 鍵管理標準に準拠します。
セキュリティ強化・動作変更
- FIPS 205 SLH-DSA: SLH-DSA の署名・検証ハッシュ API を、生メッセージではなく事前ハッシュ済みのメッセージダイジェストを受け取るように変更しました(呼び出し側で事前にハッシュ計算が必要です)。これにより ML-DSA の wc_dilithium_{sign,verify}_ctx_hash API や NIST ACVP の署名インターフェースと挙動が揃います。
- FIPS 204 ML-DSA: ポスト量子署名の実装名を、標準化前の名称 Dilithium から NIST 標準化名 ML-DSA へ変更しました(先行した Kyber から ML-KEM への改名と同様)。ヘッダ wolfssl/wolfcrypt/dilithium.h は当面は互換用のシムとして残します。
- CmacVerify API を NIST SP 800-38B の MAC 長ガイダンスにより厳密に準拠するよう強化し、タグ長の境界チェックを正しく強制するようになりました。
- RSA-PSS のデコード処理を、RFC 8017 A.2.3 のトレーラビットに関するガイダンスへより適合させるよう強化しました。
Crypto Callback
- 汎用 Crypto Callback ユーティリティ WOLF_CRYPTO_CB_SETKEY / WOLF_CRYPTO_CB_EXPORT_KEY を追加。
- WOLF_CRYPTO_CB_ONLY_* ビルドを検証するためのソフトウェア CryptoCb デバイス wc_swdev を追加。
- WOLF_CRYPTO_CB_ONLY_SHA512 対応を追加。
- SLH-DSA の CryptoCb 対応を追加。
- LMS および XMSS の Crypto Callback 対応を追加(ステートフルな鍵管理に不可欠です)。
- WOLF_CRYPTO_CB_AES_SETKEY による、TLS 1.3 の AES セッション鍵のゼロ化対応を追加。
ポスト量子暗号(PQC)
- 今後のポスト量子 FIPS 申請に向けて、ML-KEM、ML-DSA、LMS、XMSS、SLH-DSA 向けの SHA-512 DRBG と FIPS モジュール境界ラッパーを追加。
- X.509 証明書および CSR 生成における RFC 9802(LMS / XMSS)対応を追加。
- PKCS11 における ML-KEM 対応を追加。
TLS / DTLS
ハードウェア・組み込みポート
- NXP LPC55S69 ハードウェア暗号対応を追加。
- STM32U3 ハードウェア暗号対応を追加。
- Zephyr 4.3 のデフォルト TLS ソケット対応を追加。
Rust ラッパー
- Rust クレートのトレイト実装を追加: rand_core、aead、cipher、digest、signature、password-hash、kem、mac。
- scrypt KDF と RSA-OAEP 対応を追加。
整理・クリーンアップ
- ML-KEM および ML-DSA の liboqs 連携を削除。
- liboqs の SPHINCS+ 実装を、自社の SLH-DSA 実装に置き換え。
- 外部の liblms / libxmss 連携を削除(より高性能な自社実装を以前から提供しています)。
もし弊社製品についてご質問があれば、お問い合わせ窓口info@wolfssl.jpまでご連絡をお願い致します。